吉本ばなな著「キッチン」読了感想(ネタバレ有り)


吉本ばなな氏が書いたキッチンを読了した。私は男なので、今までとは違い1文ずつ読んでいかなければなかなか読み進めなかった。単に疲れていただけなのかもしれないが、文章の上辺だけをなぞって頭に入っていないことが何度かあった。

「キッチン」には2つの物語が収録されている。キッチンとムーンライト・シャドウだ。どちらも複雑な経験をした女性が主人公である。

まずキッチンの物語だが、祖父母も両親も亡くし、血縁関係者がいなくなった女性が田辺雄一と名乗る男性と出会うことから物語は展開される。田辺は性転換をした非常に綺麗な元父親・現母親と一緒に生活しており、主人公のみかげに自宅で生活することよう促し、奇妙だが、温かい3人の共同生活が始まる。

言い忘れていたが、キッチンは第1章と第2章に分けられている。第1章は血縁者を亡くしたみかげの心境、第2章は同じ境遇を持つことになった田辺雄一との関係についてだ。

題材としては非常に重く、重すぎるくらいに重かったが、キッチンでは重過ぎないように表現されていた。特に、第1章と第2章で大切な人が死ぬのだが、死の描写はリアルタイムで描かれていない。ここに吉本ばなな氏の配慮が見られた。配慮という言葉は適切ではないのかもしれないが、死を物語の中心に据えるのではなく、大切な人が死んでしまった人々だけにスポットライトを当てるように工夫していた。

ムーンライト・シャドウに関しては彼氏と彼氏の弟の彼女が同時に交通事故で亡くす場面から始まる。主人公と彼氏の弟は恋人をなくしたショックから立ち直れずにいたが、あるキッカケでそのショックを乗り越えるというストーリーで、少しファンタジーな物語になっている。

この小説の特徴は、どちらも登場人物から見える視点以外は描かれていないことだ。小説には水晶玉を通して物語を見る小説と登場人物に憑依したように見る小説に分かれているが「キッチン」は後者のようだ。その他の登場人物の心境は主人公が持っているイメージや物語内の出来事から推測する他ない。しかし、それが主人公の視点を際立たせている。

「キッチン」は非常にシンプルな物語になっているので、普段あまり小説を読まない人にとっても読みやすい本になっている。回りくどい表現もほとんどないので、真っ直ぐな感情を味わいたい方にオススメの1冊だ。

2012年9月1日 投稿:エイドギース




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