村上龍著「ライン」読了感想(ネタバレ有り)


村上龍氏が書いた「ライン」を読んだ。普段爽やかな物語を好んで読む私にとって非常に気分が滅入る物語だった。主人公が入れ代わり立ち代わり登場し、物語が展開されていく。とは言え、特にこれと言った物語があるというわけでもなく、それぞれが絡み合っている物語になっているというわけではない。

この本には中心的な人物が1人いるが、その中心人物を軽い軸として、登場人物の生活環境の断片や性格が描かれている。登場人物が入れ替わるのは何も知り合いというわけではなく、ただすれ違っただけの場合や一言かわしただけの場合などもあり、それぞれがつながっているわけでもない。

彼らはみな、何かしらの心の中に暗い闇を抱えている。それは、普通に見えても華やかに見えても暗く見えても、登場人物全てに歪な性格や過去が垣間見られた。それがこの物語を引き立たせているのだが、みながみな”異常”なのだ。読み進めるのが中々にツラかった。

そして、残念ながら読み終えた後に爽快感など残らない。その代わり日常生活の中で経験し得ない世界を覗き見ることが出来る。経験したいとは全く思えない世界ではあるが、怖いもの見たさに見たい世界でもある。そんな世界を「ライン」は見せてくれた。

村上龍がこの本を通して何を書きたかったのかは分からない。明確なメッセージを1つ伝えるような物語ではないため、各々が推測する余地は大いにある小説だ。しかし、「ライン」と名付けている以上、彼らは繋がっているのだろう。ただ一瞬交わっただけの関係であっても、似たような暗い過去を持つ人々は繋がっている。類は友を呼ぶというわけではないが、彼らの歪な性格や暗い過去が引き寄せ合ったのかもしれない。

この小説は決して明るい物語ではないが、人から感想を聞いて伝わるものでもないので(と言いながら感想を書いているのだが)興味を持っている方は一度読んでもらいたい。

私達の世界はいくつかのラインで構成されているのだろうか。ライン上で繋がる人は似たような境遇や性格の人なのかもしれない。その数あるラインの中で最もドギツい世界をこの小説で見せられた。彼らのその後を知りたくなくなるほどに…。

最後に、この小説は「私には他人というものがいない」というセリフで終わったが、他人がいないからこそ物語を他人にバトンタッチせず終了したという意味だろうか。この一言にこの物語の始まりと終わりを見た気がした。

2012年9月1日 投稿:エイドギース



Copyright© 2012 エイドギース All Rights Reserved.